STORY

JUMP-JAMの可能性を最大限に活用し工夫を積み重ね、
子どもたちの成長のキッカケを生み出す

2021.09.16

東京都内に約590館ある児童館のうち、現在116館で取り入れられ、年々広がりを見せるJUMP-JAM。渋谷区にある児童青少年センターフレンズ本町は、JUMP-JAMがスタートした2017年12月から取り入れています。約4年間を経て、JUMP-JAMが活かされた場面とは?職員の五十嵐力馬さんに教えていただきました。


【プロフィール】
渋谷区 児童青少年センターフレンズ本町 職員
五十嵐 力馬(いがらし りきま)

2002年、公共施設の管理および企画運営を行う株式会社渋谷サービス公社に入社し、いくつかの渋谷区公共施設に勤務した後、2017年4月より児童青少年センターフレンズ本町に配属され勤務開始。現在に至る。


◆自身の経験をふまえ、JUMP-JAMを通じて子どもたちの接し方もバリエーション豊かに


京王新線初台駅もしくは幡ヶ谷駅から徒歩15分程度に位置する児童青少年センターフレンズ本町(以下、フレンズ本町)は、毎日の遊びや学びを通じて、学校や学年、世代を越えたつながりが生まれる場所として運営されています。ダンスや楽器の練習ができるスタジオや作りたいものを自由に創作できる工作室、運動スペースのアリーナには高さ3メートルのクライミングウォールがあり、屋上にはローラースケート場も備え、充実した環境で遊ぶことができます。

五十嵐さんは、2017年4月からフレンズ本町で勤務することになったと言います。

「幼少の頃から、地域の子どもたちが集う子ども会に参加し、学校や学年を越えたつながりがありました。子ども会では、中学生になると小学生以下の子どもたちのお世話をするジュニアリーダーとなり、大学生や社会人になると子どもたちを指導したりキャンプに引率したりする青年リーダーという立場になりました。

子どもたちに寄り添うリーダーとしての経験があったおかげで、子どもにかかわる仕事に抵抗なくスムーズに従事することができました。今もそのときの経験が活きていると感じています」

そんな五十嵐さんも、フレンズ本町で勤務をスタートした当時は子どもたちへの接し方が、ただ寄り添って一緒に遊ぶだけというパターンに決まっていたといいます。JUMP-JAMでの経験を通じ、子どもたちの自主性を育むような声掛けを体系的に網羅でき、接し方のバリエーションも多様で豊富になり、子どもの健やかな成長を支援する児童厚生員としてもスキルアップにつながったと感じているそうです。


◆子どもたちの『やってみたい』『遊びたい』気持ちを尊重したい


フレンズ本町は、子どもたちが自分の好きなタイミングで利用できる自由な場所です。学童クラブも併設されていないので、毎日決まった子が来るわけではありません。そこで、五十嵐さんはさまざまなタイプの子が来ても楽しめるよう工夫をしているそうです。

「コロナ禍になってからは、状況に応じてJUMP-JAMの実施頻度を変えており、その日に参加したい子が集まって、その場で何をやるかを考え、運動遊びを行っています。来館が自由なので、そもそも子どもが来ない、少ないということもあります。

また、学校の体育が苦手な子や、足が遅いからやりたくないという子も一定数います。その場合は、少人数でも楽しめるゲームや体力差が出ないようなゲームを選んだり、ルールを相談したり、職員は子どもたち同士で主体的に考えられるようファシリテートしていきます。

例えば、鬼ごっこもチームでやると、自分が貢献できる場所を探せて、自己肯定感を感じてもらうことができます。遊んでいる中で、自然と楽しみ方がわかってくるのがJUMP-JAMの良いところなんです。失敗しても、あそこのプレーは良かったという前向きな声が出てきて、とても効果的だと感じています。

運動が不得意な子も、褒めてもらえると、『またやりたい!』と思えるんですね。小さい時から褒められる経験を重ねていくと、前向きになれます。子どもが決める、自分で選べる、積極的になれる、考えるようになってくれると、とても良い循環が生まれています。『いっしょにやってみない?』『最初は見てるだけでも良いよ』と、敷居を低くしてあげると、楽しそうな様子に結局みんな寄ってきます」

子どもたちの心に寄り添い、心身ともに小さな一歩を踏み出すきっかけづくりに取り組んでいる様子が伝わってきます。五十嵐さんは学校での「勝ち負け」についても語ってくれました。

「学年が上がっていくと、部活でも勝ち負けにこだわるようになっていきます。次第に運動自体は好きなのに、部活のやり方についていけない子も出てきてしまい、段々と運動離れが起きてしまっているように見受けられます。

本当は鬼ごっこやただ走るのが好きな子は多いので、勝ち負けにこだわらず、みんなで遊べる、体を動かせるのがJUMP-JAMの良い所だと思います。誰しも負けると気持ちが折れますが、勝ち負けとはちがうところでのおもしろさを知ってもらい、『またやってみたい』という気持ちを引き出すようにしています。運動が得意な子でも、不得意な子でも大丈夫。ただ『遊びたい』という気持ちを尊重していけるのです」


◆JUMP-JAMで育まれる子どもたちの変化は、職員への刺激にも


日々のJUMP-JAMをめぐり、子どもたちもさまざまな反応があると、五十嵐さんは熱く語ります。

「これまで工作室にしかいなかった非アクティブな子が、『もっとJUMP-JAMやりたい』とか『今日はJUMP-JAMやらないの?』とか言ってくれた時は嬉しかったですね。他の子に順番を譲ってあげられなかった子が急に譲れるようになるなど、日々現場でそんな変化を見られる瞬間は、職員としての醍醐味です。

子ども自身が、自分の力でやり遂げたことに気づいて大きな自信を持ち、成功体験になって大人になっても運動を続ける、自己肯定感を持ち続けるキッカケになればいいと願っています。

JUMP-JAMを通じて、自分自身とても良い経験をさせてもらっていると思っています。遊びの中で子どもたちの成長をどのようにサポートしていくかを学ぶことができ、またそれを同僚や後輩に伝え共有できています。また、意識的に子どもたちの遊びに関わる職員が増えたと感じています」

しかし、最初から順風満帆に活躍出来たわけではないと五十嵐さん。JUMP-JAMをスタートした頃は上手く行かなかったそうです。どのように改善してきたのでしょうか。

「最初は、JUMP-JAMのトレーニングで教わったことを活かさなきゃと焦りました。そう思えば思うほど、空回りしました。子どもたちの意見を引き出しきれなかったり、説明が長くなって、子どもたちを飽きさせてしまったり。その頃の苦しかった経験があったからこそ、逆にルールをもっとコンパクトに伝えよう、遊びのパターンを事前に準備しておこうなど少しずつ工夫できるようになってきました。JUMP-JAMのトレーニングで教わった『話すのは2割、動くのは8割』を心がけ、簡単にゲームのポイントだけ伝え、実際にやってみたほうが子どもたちの反応が良いことも体感しました」


◆JUMP-JAMの反応を共有し、より子どもたちが楽しめる工夫をし続ける


フレンズ本町では、毎回決まった担当者がJUMP-JAMをやり続けているわけではなく、日によって担当者を変えているそうです。各担当者は、その日のテーマやコンセプト、遊びの中で注意したこと、次どうなると楽しませることができるかなどの振り返りを行います。それを日々ノートに記録し、職員間で共有しているそうです。

「低学年が高学年に負けないようなルール設定をした、説明が簡素で遊びの流れが良かった、などと書いて、他の職員がそれについて前向きに感想を記入します。次回への改善を考える経験を積み上げることで、お互い切磋琢磨できる関係となり、上手く行かなかった時にも乗り越えてこられました」


現在、コロナ禍で子どもたちが運動する機会がますます減っているため、フレンズ本町では3密に配慮しながらJUMP-JAMを実施しています。子どもたちの中には、コロナ禍で運動が不足していたためか、転んでしまう子も多かったそうです。五十嵐さんは、これからの運動遊びをどのように考えているのでしょうか。

「今後も、十分に感染防止対策をしたうえで、運動遊びの機会を増やす必要性を感じています。JUMP-JAMは運動遊びのツールとして最適だと思っています。子どもたちが自ら選択する機会を持ち、問題解決力やコミュニケーション力、社会でも必要なスキルを養えるようになっています。フレンズ本町では、これまで近隣の小学校に出向いて体育の時間にJUMP-JAMを実施するなど、児童館外でも活動してきました。地域の大人や、保護者にもJUMP-JAMの有効性を認識してもらって、運動遊びで子どもが変わることを知ってもらいたいです。そして、児童館はその可能性がある場所だという認知が広がってほしいと切に願います」

学校の先生でもなく親でもない児童館職員という存在を、子どもたちにとって“近所のおじちゃん”であり、“一緒に遊びたい仲間”でありたいと語る五十嵐さん。コロナ禍でもその気持ちは変わらず、子どもたちが一歩を踏み出すキッカケをつくり続けています。
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