STORY

運動遊びの「食わず嫌い」をなくして
人と関わるって楽しいと感じてほしい

2024.02.20

JR山手線の目黒駅から歩いて20分ほどの立地にある不動児童館は、都会の真ん中で暮らしている地域の子どもたちにとって、貴重な遊び場となっています。1階には小学生以上の子どもたちが本を読んだりカードゲームをして、思い思いに過ごせる遊戯室があります。大きな窓から太陽の光が入るよう設計された地下には、運動遊びができるプレイルームも備えています。

不動児童館のプレイルームは、JUMP-JAMのゲームがしやすいように工夫がされています。児童館職員の藤本さんからJUMP-JAMの取り組みについてお話を伺うとともに、子どもたちが実際に遊んでいる様子を見学させていただきました。


(プロフィール)
藤本陵太さん
東日本大震災を機に人生を見つめ直し、地域の子どもたちの育成に携わる仕事を志す。大学で学び教員免許を取得後、学童クラブに勤務したのち、2023年4月から不動児童館の職員となる。



誰でも参加しやすい運動遊びを導入したJUMP-JAM

不動児童館でJUMP-JAMをスタートしたのはコロナ禍よりも前の2019年。ドッジボールなどに消極的な子どもたちでも、参加しやすい運動遊びはないだろうかと考えたことがきっかけでした。

「児童館を訪れる子どもたちの年齢は幅広く、小学生と中高生が一緒に遊ぶこともありますが、JUMP-JAMのゲームは年齢による力関係が生じにくく、低学年でも参加しやすいようです」と藤本さん。

不動児童館では現在、月曜日の15時半から16時半の1時間をJUMP-JAMの時間としています。参加者は小学校低学年から高学年まで男女を問いません。
JUMP-JAMの時間になると、藤本さんはまず「今日は何をして遊ぼうか」とプレイルームに集まった子どもたちに問いかけました。「Pオニ」「線上をかけるオニ」「ひっこし」と元気よく声を上げたのは、低学年の女の子たちです。

不動児童館のプレイルームの床には、バスケットボールなどのコートラインのほかにも、JUMP-JAMのゲームがしやすいようにラインが引かれています。例えば「Pオニ」は部屋の四隅にある四角い枠が安全地帯で、そこには一人しか逃げ込めないというルール。次の人が安全地帯に逃げ込んできて「ポチョムキン」と言ったら、先にいた人は安全地帯を出ていかなくてはなりません。

オニごっこを基本としていますが、見ているとあちらこちらで「ポチョムキン」のかけ声とともに安全地帯に飛び込む子、走り出す子がいて、みんなが主役になれるにぎやかなゲームです。足の速い人だけが逃げきれるとは限らないため、スキップするように走っている子もいます。

2回戦目の前に藤本さんが「かけ声を変えてみる?」と誰にともなく言いました。すると子どもたちから「好きな動物の名前をかけ声にしたらいいんじゃない」「JUMP-JAMって言うのはどう?」などの意見が飛び出して、さっそく試してみることに。新しいかけ声を口にする子どもたちの声や表情から、ドキドキわくわくする気持ちが伝わってきます。


トレーニング研修で再認識した6つのC

不動児童館では、運動遊びやJUMP-JAMの担当職員を定めず、みんなで子どもたちに関わろうという考えのもと、4人の正職員がローテーションでJUMP-JAMのファシリテーターをつとめています。藤本さんも不動児童館に着任後に、JUMP-JAMのトレーニングに参加しました。

JUMP-JAMでは、子どもたちが遊びに楽しく参加できるためのスタッフの心得として、 “6C”を掲げています。

「意図的に褒める(CELEBRATION)、子どもに選択肢を与える(CHOICE)など、“6C”の内容はいずれも、子どもと接する上で普段からなんとなく意識していたことでしたが、トレーニングで言語化されたことで、再認識につながりました」と藤本さん。

子どもたちのなかには、運動遊びに苦手意識があるのか、JUMP-JAMに誘っても参加をためらう子や、やってみる前から「つまらない」という子もいます。
藤本さんは、公園でのボール遊びが禁止されているなど、自由に遊べる場所が減っていること、放課後も習い事で忙しい子どもが増えていることなどをあげ、運動遊びを経験する機会そのものが少なくなり、なんとなく消極的になってしまう「遊びの食わず嫌い」を心配します。

「児童館は子どもたちが安心できる居場所。いろいろな過ごし方があっていいんです。児童館で運動遊びをしないからといって、必ずしも運動が嫌いだったり、苦手だったりするとは限りません」と冷静な目で見守りながらも、遊びを通して人と関わる経験は、子どもにとって貴重なものだと考えています。

「子どもは遊びを通して、たくさんのことを学んでいきます。失敗や成功の体験を積み重ねながら、次はこうしてみようと考える力を身につけていったり、人とのコミュニケーションの取り方を学んだり。そのためにもやはり、まずは遊びに参加してもらいたい。遊びって楽しいねと思ってもらいたい。僕ら児童館の職員はその目標に向けて、いかに環境をつくっていくかだと思っています」

遊びを通して子どもたちが力を伸ばしていけるように、藤本さんは“6C”のほかにも状況に応じて変えていく「カスタム(CUSTOM)」&新しく創る「クリエイト(CREATE)」という、“2つのC”を意識しているそうです。


「カスタム」&「クリエイト」で遊びをもっと楽しもう

「Pオニ」の次は、「線上をかけるオニ」が始まりました。こちらもオニごっこのアレンジですが、ゲーム名の通り、オニが動ける場所は床に引かれた線の上に限られます。途中、オニが苦戦していることに気がついた藤本さんは、タッチでオニが交代するのではなく、どんどん増えていく「ふえオニにしようか?」と提案しました。子どもたちからは「このままでいいよ」という声。藤本さんは子どもたちの選択を尊重し、オニは交代制のままでゲームを続けながら、様子を見て制限時間を3分から2分にチェンンジしました。逃げ切った人は、次のオニに立候補できるというルールです。短時間でゲームが進展するからか、少し疲れた様子だった子どもたちの動きが、また生き生きとしだしました。

16時になると、習い事などの事情で何人かの子どもたちが帰っていきます。残った子どもたちからのリクエストで、藤本さんもゲームに参加することになりました。次のゲームは「ひっこし」です。プレイルームの中央ラインにオニが立ち、その他のメンバーは「ひっこし」のかけ声とともにオニが見張っているラインを超えて、反対側の壁へとすばやく移動します。ラインを超えるときにオニに捕まってしまったらじゃんけんをして、負けたらオニの仲間になります。

藤本さんが右に行くと思わせて左側へ走るフェイントを見せると、口で説明しなくても子どもたちはすぐに新しい技を吸収しました。声や体の動きでフェイントをかけ合って、楽しそうに遊んでいます。



「学校でもJUMP-JAMのゲームで遊んでいる」と小学2年生の女の子

最初に「今日はPオニをしたい」と提案した小学2年生の女の子は、JUMP-JAMのない日にはマンガを読んだり、工作をしたりして過ごすことが多いそうです。ボール遊びはちょっと苦手に感じていましたが、オニごっこは大好きで、不動児童館で一緒にJUMP-JAMに参加した友だちとは、学校でも「Pオニ」や「ひっこし」をして遊んでいると話します。

「JUMP-JAMでは、初めて参加した子に周囲の子がルールを教えてあげるなど、子どもたちがお互いにサポートしあうような雰囲気があります」と藤本さん。

そうした空気を感じとったのか、以前はJUMP-JAMの時間になるとプレイルームを出ていってしまっていた高学年の男の子が、あるときからプレイルームに残ってJUMP-JAMに参加するようになるという、うれしい変化もありました。

また不動児童館では、放課後や夏休みに子どもたちに居場所を提供する事業として目黒区が実施している「ランランひろば」で、月に1回「出張児童館」を行っています。その際に、学校の校庭を借りてJUMP-JAMのゲームをすることもあり、新しい遊びとして児童館から飛び出して、JUMP-JAMを地域の子どもたちに知ってもらうことのできる機会となっています。

==不動児童館での人気ゲーム==
ひっこし
ドーナツバスケットボール
王様陣取り
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