STORY

遊びでは、自由に発言していい
JUMP-JAMを通じて自分から「こうしたい」と言える子どもに

2023.03.10

新宿区の高田馬場第一児童館は小学校の敷地内にある児童館です。児童館内では、学童クラブと放課後子どもひろばが行われています。毎週土曜日の午前中にJUMP-JAMを実施しています。担当職員の太田さんにJUMP-JAMに参加する子どもたちの様子と、今後の展望などをお聞きしました。

(プロフィール)
高田馬場第一児童館
太田 卓見(おおた たくみ)
保育士として働いたのち、2022年度から高田馬場第一児童館の職員となる。子どものころは絵を描くのが好きで、今もどちらかといえばインドア派。JUMP-JAMの担当になって転機を迎え、子どもたちと走り回れるよう筋トレが習慣に。


土曜日の午前中、30分間のJUMP-JAMタイム

高田馬場駅から徒歩8分ほどの住宅地に位置している高田馬場第一児童館は、「タカイチ」という愛称で地域の子どもたちから親しまれています。1階にはひろびろとした乳幼児向けのスペースがあり、2階には工作室や運動ができるホールを備え、学童クラブも併設しています。

タカイチでは、毎週土曜日の午前11時半から12時までの30分がJUMP-JAMの時間になります。土曜日は習いごとなどの予定があるという子も多く、参加人数は日によって異なりますが、小学校低学年から高学年まで、ときには中学生も参加して、年齢・性別を超えた運動遊びの時間となっています。

取材に訪れた日、「もうすぐJUMP-JAMがはじまります」という館内アナウンスとともにホールに集まってきたのは、小学1年生と3年生の女の子たちです。思い思いにビニールテープで床に線を貼り、はじまったのは「線上をかけるオニ(線オニ)」というゲーム。その名の通りオニは線の上を走って他の子を追いかけます。逃げる子どもたちは線にそっと近づいてみたり、一斉にオニから離れてみたり。ゲームをしているうちにコミュニケーションが生まれ、鬼ごっこが体の大きさや運動能力に関わらず楽しめる遊びに変化しました。

「たっくん、今日は何するの?」「よし、みんなでたっくんを狙おう」、子どもたちに囲まれて友だちもしくはお兄さんのように慕われているのは、JUMP-JAMを担当している職員の太田さんです。太田さんは、タカイチの職員になる前は保育士として働いていました。将来は保育園の園長になることを目指し、就学に向けて小学校と連携できることを学びたいと、1年ほど前に児童館にやってきたばかりです。

ゲームで太田さんがオニになって、誰もつかまえられず「もう疲れちゃったよ」と嘆くと、3年生の女の子がぱっと手を挙げてオニを交代してくれます。1年生の女の子たちも3年生に負けないくらいのびのびとして、元気いっぱいです。


一人で遊んでいる子に「JUMP-JAMやってみない?」

「JUMP-JAMは今までにない遊び。ゲームのルールがとても分かりやすく、初めての遊びでもパッとのみこめます。子どものころに友だちと遊んでいると、みんなが楽しめるように独自のルールができることがあったと思います。たとえば野球なら年下の子は5回までバットを振ってもいいとか、そういうルールです。それを分かりやすい形にしたのがJUMP-JAMの遊びなのかなと思います」

タカイチにきてJUMP-JAMを知ったという太田さんですが、ベースとなる考えがすっと理解できたので、スムーズに取り組むことができたと話します。コロナ禍の運動遊びにはソーシャルディスタンスやマスク着用などの制限もありましたが、「線オニ」のように声を出さなくても楽しめる遊びを提案したり、養生テープを貼り合わせて「宝」と書いたものをホールに隠し、30秒以内に見つけられたら勝ちという宝探しゲームなど、密にならない遊びを考案したりして乗り切ってきました。子どもたちと一緒に“ほど良い難易度”にルールを調整していくことがポイントだといいます。

運動遊びが好きそうな子に限らず、ひとりで遊んでいる子や本を読んでいる子にも「JUMP-JAMやってみない? 見るだけでもいいからおいでよ」と声をかけます。

「いつも一人で人形遊びをしていた女の子が、人形を持ったまま見学にきてくれたことがありました。その子は一人で遊びたいのではなくて、友達が遊んでいるゲームのルールがわからなかったんです。やってみようかなと言ってくれて、最初はふたりで『けんけん相撲』をしました。その後何回か同じ遊びを同じルールで繰り返すようにしたところ、体を動かして友達と遊ぶって楽しいと自信をつけてくれたようです」

今までにない新しい遊びが体験できるのも、JUMP-JAMの魅力です。
以前、「今日は『スーパーラビット』という遊びをするよ」という声かけに集まってきたのは、活発な小学5年生の男の子たちだったそう。「スーパーラビット」というのはみんな同じ歩数で幅跳びをして、進んだ距離によって勝ち負けが決まるゲームです。

「今は子どもたちが思いきり体を動かせる時間というのが少ないし、初めての遊びに出会えたのが楽しかったようで、子どもたちから『午後もまたスーパーラビットをしよう』と言われるほど盛り上がりました。ふだんは別の小学校に通っていて、その日初めて一緒に遊んだという子ども同士が打ち解けて『あのマンガ好き?』『一緒に読もうよ』と帰っていったのも印象的でした」


遊びを通して見えてきたのは、子どもが直面する運動の課題

一方でJUMP-JAMを通して、今の子どもが直面している運動の課題も見えてきました。太田さんは、体が固い子が増えているように感じると話します。

「手の甲にペットボトルのキャップを乗せてオニから逃げる『キャップオニ』では、キャップを落とさないよう指でバランスを取りますが、子どもたちを見ていると『指が動いていないな、ぎこちないな』と感じることがあります」

指の動きというのはとても大事で、太田さんは保育士時代に1~2歳クラスを担当していたとき、スプーンで食べる練習をする前に紙を破くような遊びを取り入れて、指の力をつけるトレーニングをしていたそうです。

「子どもは遊びを通して体の動かし方を学び、それが生活につながっていきます。体の動かし方を知らない子が増えているのは、そもそも体を動かす機会が減っているからなのか。スマホの操作などは幼いうちからとても上手ですが、便利な時代になった分、とっさに筋肉を動かす瞬発力が衰えているのかもしれません」

遊びを通して、体の動かしかたを学んでほしい。そのために心がけていることがあります。

「『スーパーラビット』ではそのままポンと前に跳ぶ子が多く、腕を振ることを知らないんだと気がつきました。だから『ちょっとやってみるね』といって、腕を思い切り振って跳ぶ姿を子どもたちに見せたんです。『腕を振るといいよ』と言葉で教えるのではなく、子どもたちが自分で気づくようなアプローチを心がけています」


遊ぶときには自由に声を出して、心の解放を

JUMP-JAMの今後の展望について尋ねると、「キッズリーダーが出てきてくれたらうれしい」と太田さん。「今日は何をして遊ぶ?」「きつかったら誰かとオニを交代しよう」、そんな風に今は自分がJUMP-JAMの担当として担っていることを、子どもたちが主体となって進めていけるのが理想だと考えています。なぜなのでしょうか。

「子どもたちを見ていると、引っ込み思案で主体性のない子が多いと感じます。自分から『こうしたい』と言える子が少なくて、『自分の意見を言ったら誰かに迷惑をかけるかも』『傷つけるかも』ということをすごく考えている。とてもやさしい子が多いんですね。

『あの子と遊びたいけど、じゃましちゃうかもしれない』と迷っている子には、遊ぶときには自由に発言していいんだよと言ってあげたい。オニがきつかったら『一人だと大変だから手伝って』と言えばいい。それが、実生活でもつらいときに助けを呼べる力につながっていくと考えています」


小学一年生の女の子「JUMP-JAMは楽しい!」

土曜日のJUMP-JAM タイムが終わった後で、参加していた小学1年生の女の子に感想を聞いてみました。JUMP-JAM には毎週ではなく、ときどき来ており「JUMP-JAMは楽しい」とにっこり。参加しているお友達がその度にちがっても、一緒に体を動かしているうちに仲良くなれるそうです。

去年の4月に小学校に入学した際に、太田さんが最初にした挨拶を覚えていて、こう教えてくれました。「たっくんはとっても話しやすい。おなじときにタカイチに来たから、わたしとおんなじ1年生なの」

そんな親しみを感じる太田さんが一緒にいることで、心から安心して遊べるのかもしれません。JUMP-JAMを通じて子どもたちと太田さんとの信頼関係が垣間見え、優しく温かな雰囲気が生まれていました。


==高田馬場第一児童館で人気のゲーム==
風船バレーボール
宝探しゲーム(オリジナル)
キャップオニ
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