STORY

本気で遊んでいるときは、たくさん走っても疲れない
自分たちで考えて、自分たちがしたい遊びができるのが楽しい!

2023.10.10

町田市の北西部、多摩丘陵を望む小山町にある「小山(おやま)子どもクラブ」は、2019年12月にオープンした新しい児童館です。地域の子どもたちから「さん」という愛称で親しまれ、太陽を意味する“SUN”、小“山”、“参”加などの意味が込められています。1階には乳幼児室や図書学習コーナーのほかに、楽器の練習ができる防音室やボルダリング・ウォールなどがあり、2階の遊戯室では走り回って遊ぶこともできます。JUMP-JAMで遊ぶ様子を見せていただくとともに、職員の田中昌恵さんとキッズリーダーの子どもたちにJUMP-JAMを体験した感想や取り組みの工夫を伺いました。



(プロフィール)
小山子どもクラブ さん
田中昌恵
幼稚園教諭として働いたのち、小学校のPTA役員などを経験。小山地区の子どもたちを見守る青少年健全育成活動に携わっていたことから、クラブ創設時に児童館職員(児童厚生員)になる。

キッズリーダー(※)
なゆさん、こうたさん
「さん」ができてすぐの小学校3~4年生の頃から遊びに通い始め、自然と年下の子どもたちをまとめるリーダーのような存在に。中学生になってからも、部活の合間に遊びに立ち寄っている。

※JUMP-JAMでは、主体的にJUMP-JAMの企画や運営にかかわる子どもたちを「キッズリーダー」と呼んでいます。

低学年と高学年が一緒に遊べるJUMP-JAM

「さん」では2週間に1度、土曜日の15~16時にJUMP-JAMを行っています。一度60分から45分に時間を短縮したところ、子どもたちの多くが「短すぎる」と残念がったほど、楽しみにしていたのだそうです。この日は未就学児から中学生まで、20人ほどの子どもたちが2階の遊戯室に集まりました。

導入は「ミングルミングル」という遊びながらグループ分けができるゲームです。2つのグループになって始まったのは、「トムジェリ」という追いかけっこ。みんなで輪になって座り、その周りをリレーのように交代で走ります。1ゲームごとに作戦会議をして走る順番を練り直し、なかなかのいい勝負。勝っても負けても、力を出し切った子どもたちはみんな笑顔です。

異年齢の子どもたちが集まっていながら、力の拮抗したゲームで盛り上がることができるのは、大きい子と小さい子が偏らないようにキッズリーダーがバランスを考えているからです。走る方向を間違えないように、バトンパスのときにぶつからないように、高学年が低学年をサポートする姿が見られます。2回続けて負けてしまったチームには、中学生のキッズリーダーがさりげなく走る順番をアドバイスし、3ゲーム目で1勝をおさめました。

JUMP-JAMは「不公平」がないからおもしろい

キッズリーダーとしてゲームを進行するなゆさんとこうたさんは、小学校時代には毎日のように「さん」へ通い、閉館の18時まで遊んでいたそうです。児童館のイベントなどを企画する「子ども委員会」に所属していたことから、JUMP-JAMでも自然とリーダー的な存在になりました。

「トムジェリでたくさん走って、疲れるのが楽しい」と言うこうたさんは、ダンスや水泳の習いごとを経験し、体力には自信があるほうです。一方でお母さんによると「友だちに誘われないと、1日中家でスマホを眺めているタイプ」でもあるのだとか。

「以前は運動があまり好きではなかったけれど、JUMP-JAMで走ってみたら楽しかった」と言うなゆさんは、みんなで体を動かすことが好きになり、体育の授業も楽しめるようになったと振り返ります。

なゆさんとこうたさんは、JUMP-JAMの中で走った体験をきっかけに中学校では陸上部に所属しています。「JUMP-JAMではグループ分けに配慮したり、ルールを工夫したりして、不公平なく遊べるからおもしろい」「自分たちで考えて、自分たちがしたい遊びができるので、そこが楽しい」と話します。

異年齢の遊びを通し「こうなりたい」と目標を抱く

休憩をはさんで、2つめのゲーム「しっぽとり」が始まりました。マジックテープをベルトのように腰に巻き、しっぽに見立てた長いテープをつけて取り合います。この日はJUMP-JAMに参加する人数が多く、マジックテープの数が足りません。なゆさんとこうたさんが機転を利かせて「ビブスを着ている人はしっぽをつけていません。しっぽを取られることがないから、“無限”に相手のしっぽを狙えます!」とルールを工夫し、子どもたちからわっと歓声が起こります。

1ゲーム目が終わったところで、田中さんが子どもたちに問いかけました。「しっぽを取るときに、体当たりをした人がいるみたいです。どうしたらいいと思う?」

「やさしくしよう」とみんなに呼びかけるように言ったのは、その日のメンバーで一番体の大きな中学生の男の子でした。「ごめんねって言おう」と、低学年の男の子がぴょんと跳ねるように続けます。拍手が起こり、2ゲーム目が始まりました。きょうだいと一緒に参加していた未就学の子が“無限”に立候補し、ぶかぶかのビブスを着てニコニコの笑顔。しっぽを背中ではなく両脇につけているのも、取られにくいようにと「さん」の子どもたちが編み出した工夫です。

「キッズリーダーの姿を見てきた子どもたちが今4年生になって、同じような存在になりたいとがんばっています。遊びを通して、数年後に自分たちもこうなりたいという目標が持てるのは、すごくいいこと。“子どもクラブ(児童館)ってってこういう場所なんだ!”と、JUMP-JAMを通して改めて異年齢で遊ぶことの大切さを感じました」と、職員の田中さんは語ります。

「面倒くさい」を「やってみよう」に変える工夫

「さん」では、JUMP-JAMの最後をいつも子どもたちが大好きなドッジボールで締めくくります。やわらかいボールを使っているから、あたっても痛くないのが人気の理由。近頃ではボール遊びを禁止している公園が多く、思い切りボールを投げ合う子どもたちは生き生きとした表情をしています。

 JUMP-JAMが初めての子も参加しやすいように、田中さんは「JUMP-JAMで遊んでみない?最後はドッジボールもするよ」と、声をかけるようにしています。「動くのは嫌い」「面倒くさい」という声が返ってくることもありますが、「ドッジボールをするよ!」と伝えることで参加する子どももいるのだそうです。

集まる人数は日によって異なり、グループ分けが難しいほど少ない日もあれば、たくさん来てくれたものの友だち同士で盛り上がっていて、田中さんがゲームの説明をしようとしても、声が通らない日もあったといいます。そんなときには「しっぽとり」などの遊びをチーム戦ではなく個人戦で行い、ゲームに興味を持った子どもと一緒に遊びながら、少しずつ関係を築いてきました。


地域と連携し、小学校でJUMP-JAMを開催

「さん」は、小山地区の子どもたちを見守る青少年健全育成委員の人たちが、長い年月をかけて市に必要性を訴え続けて新設された児童館です。運営を担っているのは地域の人たちが設立したNPO法人で、もともと地域とのつながりがあることから、毎年夏には小学校のサマースクールや放課後子ども教室にも出張して、JUMP-JAMのイベントを行いました。

初めての放課後子ども教室JUMP―JAMイベントでは40名を2セットと、普段よりも多い人数に不安もありましたが、参加した高学年の子どもたちに相談したところ、「こうしてみよう」「ああすればいい」とアイデアを提案してくれたそうです。

「JUMP-JAMに出会っていなければ、自分でゲームを仕切って終わっていたかもしれません」と田中さん。JUMP-JAMの児童館職員向けのトレーニングで、子どもたちが主体的に遊ぶ力を引き出すことを学び、目からウロコが落ちたと話します。

「子どもたちから『難しい』、『悔しい』と言われたとき、以前であれば『残念だったね』、『ほかの遊びをしてみようか』と答えていました。今は、『どうしたらいい?』と問いかけます。すると『子どもはこういうことで困っていたのか』と気がつくことが増えました」



本気で遊んだ経験は、人と関わっていく力になる

「JUMP-JAMで遊び込むことのおもしろさを知り、本気で遊べる人になって欲しい」と田中さんは考えています。

「たかが遊び、されど遊び。遊びにはいろいろな要素が含まれています。アイデアを出したり、いろんな工夫をしたりして、遊び込む体験をするのは大事なこと。人との関わりの原点になるのではないでしょうか」

あっという間に1時間が過ぎて、子どもたちは参加の印のスタンプが押されたカードを手に帰って行きます。「『スタンプを集めたらどうなるの?』と尋ねる子どもが多いので、ゲームのリーダーになってもらおうかと考え中です。“楽しい!!”と思うと、思い切り走りまわっても疲れを感じないんです」そう言いながら子どもたちを見送る田中さんの顔にも、さわやかな汗が光っていました。



==小山子どもクラブでの人気ゲーム==
しっぽ取り
トムジェリ
ドッジボール
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