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子どもたちが「楽しい!」と思える選択肢を増やしたい
コロナ禍でも、子どもたちとともに運動遊びを工夫

2021.05.25

都内に約600館ある児童館のうち、現在92館で取り入れられているJUMP-JAM。調布市にある国領児童館では、コロナ禍でも密を避ける遊びに積極的にJUMP-JAMを活用しています。その試みの背景にある想いとは? 職員の相良さんに教えていただきました。

【プロフィール】
調布市国領児童館職員
相良
大学卒業後、2020年4月より調布市市役所の児童青少年課職員として勤務。現在に至る。


◆女の子が運動できることは「恥ずかしい」、周りに遠慮していた子ども時代


京王線国領駅から5分ほど歩くと、都営住宅が立ち並ぶなかの1棟にある調布市国領児童館(以下、国領児童館)。調布市が運営する公設公営の児童館です。体育館のような広々とした運動スペースを始め、工作室や図書室もあり、子育て中の親子や近隣の小学生、中高生が自由に来館し思い思いに過ごしています。

国領児童館では、2018年からJUMP-JAMがスタートしました。調布市内には児童館が11館ありますが、そのうち5館でJUMP-JAMが導入されています。国領児童館では、他の児童館と連携して一般向けのイベントや職員向けの研修を開催するなど協力体制をとっています。

相良さんがJUMP-JAMの担当になったのは、職員として勤務が始まった2020年4月からでした。子どもの頃から、身体を動かすことが得意だったという相良さん。一方、小学生の頃は周囲の目を気にして思いっきり自分を出せなかったと言います。

「50m走のときは、1位ではなく2位か3位がいいと思っていて、本当は速く走れるのにあえて遅く走っていました。女の子が男の子と同じように運動できることが、恥ずかしいと感じていたからです。クラスメイトから“やんちゃな子”“女の子っぽくない”という印象を持たれてしまう気がしていました。その後バドミントン部に入った際、持久力を高めるために20分間走を繰り返すうちに、『誰よりも早く走ってやろう』という気持ちが芽生えました。実際に短距離の結果が出てきて、走ることがおもしろくなり、恥ずかしいという気持ちはいつのまにか消えました」



◆コロナ禍の運動遊び、子どもたちともに遊び方を工夫


大学時代には国語科の教員免許取得を目指していた相良さん。学ぶうちに、何かを教えるよりも子どもの成長を支える側になりたいと思うようになり、児童館職員の道へ進みました。子どもたち一人ひとりに寄り添い、遊びを通じて子どもの「やりたい」を実現する手助けをしています。


コロナ禍においても、子どもたちの小さな変化を汲み取っていました。身体を動かす機会が減って怪我が増えたり、精神的にもストレスを感じたりしている様子が見られるそうです。

「コロナになってから、怪我をする子が増えましたね。足の運び方が上手く行かずに転んだり、距離感をつかめず壁にぶつかったりする子を頻繁に見かけるようになりました。本来であれば身体を動かして何度も転んで、こうやったら転ぶんだなとか、走ったら危ないんだなと自ら気付きます。こればかりは教えて出来るものではなく、日々の経験の中で習得していくものです。子どもたちに、どうやって楽しんで身体を動かしてもらうかは課題です」


コロナ禍以降、国領児童館でもソーシャルディスタンスの確保や3密に配慮しています。その中でも、JUMP-JAMは子どもたちの運動遊びに役立っていると言います。


「JUMP-JAMの『キャップオニ』や『イライラボール』は他の遊びに比べて距離を保てるので、今の時代に合っていると思います。また、職員と子どもたちで話し合って遊び方を工夫していますが、子どもたちも距離を保ちながら身体を動かすことに徐々に慣れてきました。このような大変な状況の中でも、みんな上手に遊んでいるなと思います」



◆運動に参加しなくてもいい、遊びの道具づくりからきっかけを


史上最も身体を動かさなくなった、と言われている現代の子どもたち。長引く自粛生活の中で、さらに運動不足が加速しています。相良さんは、そのような運動をしない子たちへも積極的にきっかけづくりをしています。


「そのときたまたま館内にあった大きな段ボールを見せながら、子どもたちを『イライラボール』に誘ってみたんです。ボールの的当てになる箱から、子どもたちと一緒につくることにしました。すると、子どもたちから『箱を壁に貼り付けたらいいんじゃない?』『遊具の上に乗せてみたら?』『ボールをドッヂビーにしたら?』などとたくさん意見が出てきました。的当てづくりに一生懸命な子、余ったテープでボールを作り出した子など、普段は参加しない子も集まったのです。みんなの個性が光り、とても楽しい時間になりました。」




◆子どもたちの「楽しい!」を引き出すJUMP-JAM


相良さんは、子どもたちが楽しいと思える選択肢を増やしてあげたいと言います。JUMP-JAMを実施する中でも、常に子どもたちの繊細な想いを尊重しながらコミュニケーションをとっている様子がうかがえました


「国領児童館では、運動する曜日や時間、内容をある程度決めています。ダンスをする日であれば、みんなで同じダンスを踊って楽しく身体を動かして終わる、という感じです。JUMP-JAMでは一年生は必ず一度は体験してもらうようにしていて、その後はやりたいときに参加してもらうというルールで導入しています。子どもたちが何かやりたいと思ったときに、『じゃあJUMP-JAMのゲームブックを見てみたら?』と声を掛けてみると、『ちょっと身体動かしたいから見てみる』と応えてくれたりします」


JUMP-JAMは、子どもたちの選択肢を増やす一助になっているようです。コロナ禍であっても、子どもたちが自ら選択することを大事にし、また子どもたちとともに工夫する相良さんの姿に頼もしさを感じました。




写真 ほりごめひろゆき
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