STORY

大切なのは、うまい下手じゃない。夢中になって遊べるかどうか
小さいころからの身体を動かす習慣が、将来の幸せを左右する

2019.04.25

現在50種類あるJUMP-JAMのゲーム。そのすべてを監修しているのが、千葉工業大学の引原有輝教授です。専門家から見るJUMP-JAMプログラムの特徴や、そこに込められた想いとは?
JUMP-JAMプログラムのパートナーにお話を聞くシリーズ、第1回です。
 

プロフィール
引原有輝
千葉工業大学創造工学部教育センター(体育教室) 教授
千葉工業大学 創造工学部 教育センター/同大学大学院 工学研究科 デザイン科学専攻所属。筑波大学大学院人間総合科学研究科 博士(体育科学)を修了後、独立行政法人国立健康・栄養研究所(現・国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)研究員を経て、2008年に千葉工業大学に着任。専門分野は、発育発達学、健康体力学、行動科学。

■足りていない、現代人の運動量


みなさんは、体を動かすことは好きですか?「休日はゴロゴロ。駅の階段の上り下りすら、ついついエレベーターを使ってしまう」。そんな人もいるのではないでしょうか?

今、現代人の運動不足は、相当深刻なものとなっているようです。引原教授によれば、世界の全死亡数における危険因子の第4位は、『身体活動の不足』によるものだとか。現代社会では、生きるために必要な身体活動が不足しており、それが子ども時代から大人になるまでの間に、じりじりと身体に影響を与えているというのです。

逆に言えば、各自が定期的に身体を動かす時間を持つことで、病気の予防につながるということになります。とはいえ、中年期を過ぎてから急にアクティブに動きましょうと言っても無理な話。そこで、子どもの時から体を動かす習慣をつけていくことが、中高齢化時代を幸福に過ごしていくにはとても大切なことなのだそうです。

では、子ども時代から運動習慣をつけるには、どうすればよいのでしょうか。最近では、公園ではボール使用なども禁止され子どもたちにとってゲームをする場所になっていたり、自由に遊べる空き地も減っています。受験を目指して塾通いの子どもも多く、遊ぶ友達を見つけることもむずかしく、加えて、もともと運動が苦手な子どももいるはずです。

■ワイワイと走って、遊んで、楽しんで。


「いわゆる運動神経がいいというのは、特定のスポーツだけをやっていて得られるものではありません。リズム感、バランス感覚、モノや相手と自分との距離感やタイミングのつかみ方などが『運動のセンス』と呼ばれるものでベースにあります。投げたり、飛んだり、回ったり、バランスを保ったり、できるだけ楽しく体をいろいろと動かすことで運動のセンス(コツ)は磨かれていきます」

勝ち負けをあまり気にせずに、子どもたちだけでワイワイと走ったり飛んだり。年齢の異なる友だちとも遊ぶ。飽きたら別の遊び、夢中になればいつまでも。そんな子ども時代の遊び方は、実は理にかなったものだと教授は言います。

「私は今の子どもたちにも、そんな遊び方ができる場があれば…とずっと思っていました。そこに、育成財団とナイキからJUMP-JAM始動の打診があり、協力することになったのです」。

引原教授はJUMP-JAM始動前から、プログラムの開発を主に手掛けています。

「もともと私自身も遊ぶことがとても好きなんです。こんなことをやって遊びたいな、と私自身が考えていることを提案しているので、遊びを創作することはワクワクして苦労なんてないですよ」と語る引原教授の表情はとても楽しそうです。

JUMP-JAMプログラムの内容は、第1期では、自分自身の身体をコントロールする遊び(名付けて、ロコモ遊び!)を30種類、第2期では、対ヒトであったり、対モノであったり自分以外と調和をはかる遊び(名付けて、オブジェクト遊び!)を20種類開発し、現在全部で50種類。とはいえ、「民族大移動」や「ドーナツバスケットボール」などの面白い遊びは、昔からある遊びです。

「遊びの名前も、私が子どもの頃に使っていた名前だったり、第1期から関わっている特別なトレーニングを受けた児童館職員と一緒に考えたり。もちろん、スポーツから発想を得たもの、オリジナルで考案したものなどもあり、遊びの内容は多岐にわたります。」

JUMP-JAMの遊びのルールは、スポーツのルールのような「規則」ではなく、「やくそくごと」だと引原教授は話します。ある程度のルールの枠組はありますが、そこから先は、子どもたちが遊びながら考え、より面白く遊べるようにアレンジしていけるのが大きな特徴のひとつでもあります。

■大切なのはうまい下手じゃなくて、楽しいかどうか

「ゼロから遊びを創るのは難しいので、ベースとなるものをJUMP-JAMが提示します。でも、遊び方はその通りでなくてよく、どんどんアレンジしていい。児童館によって、施設の大きさも子どもたちが集まる人数も、年齢や男女比も違いますから、状況に応じて工夫できるのがJUMP-JAMの面白いところだと思っています」と教授はいいます。

本来、遊びはただ楽しいだけでいいはずです。得意不得意があっても関係なく、誰かに上手、下手などを評価されずに、ただ楽しめる場所があってもいいのではないか。それがJUMP-JAMです。

教授が何より期待しているのは、これまであまり運動が好きではないと感じていた「非アクティブ層」の子どもたちが、「アクティブ層」の子と交じっても楽しく遊べることです。

■児童館と手を携え、JUMP-JAMの想いを広げていく


「JUMP-JAMプログラムは、子どもたちが遊びながら工夫をしていくところに創造性があり、児童館職員と子どものコミュニケーションだけでなく、子ども同士のコミュニケーションも生むことで能動的な遊びとなるのです」

JUMP-JAMで楽しく遊びながら、子どもたちの自主性を促す…。児童館職員にとっても挑戦です。引原教授も児童館職員たちと直接コミュニケーションを取りながら、子どもたちにとってのよりよいプログラム作りは、常に改善をし続けています。

ところで引原教授。児童館に足を運びながらも、ご自身がJUMP-JAMで遊ぶ時間はなかなかありません。そこで、最近は、休日に地域の小学校の体育館を借りて、近所の子どもたちに声をかけて、JUMP-JAMで遊んでいるそうです!

「最初は息子の友達3人くらいに声をかけたのですが、そこからどんどん人数が増えて今では60人に。月に2回くらい開催しているのですが、子どもが30名、親が10名くらい来ますよ。年末には、授業の一環で『遊び運動会』をやろう!と千葉工業大学の学生と企画したら90人も参加がありました」

本当に遊びが大好きな教授なんですね。2人の男の子のお父さんでもある教授は、家でもよく3人で、たまに4人(奥様も!)で遊んでいるそうです。

■まずは、児童館をのぞいてみよう


JUMP-JAMの遊びには、勝ち負けはありますが、運動が得意な子も苦手な子も、勝ったり負けたりの経験ができます。結果にこだわり過ぎないから、遊びが終わってみたら楽しかったという感情だけ。遊びに負けても、「敗者」にはならないから自信を失うこともない。楽しいから体を動かすことがおっくうではなくなる。身体活動が習慣となり、新しいことに挑戦する気持ちもわいてくる。学校でも家でもないところに、心地よい居場所ができる。

現在、JUMP-JAMを取り入れている児童館は、東京都内に35ヶ所。
そこには、子どもたちの新しい可能性を引き出す素敵な出会いがあるかもしれません。

取材・文 宗像陽子 写真 平林直己
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