STORY

心を解き放ち、子ども主体で自由に遊ぶ
「こどもまんなか社会」を実現するためのヒントとなるJUMP-JAMの可能性

2024.05.17

八王子駅からバスで約30分。「川口小学校」のバス停から徒歩で3分ほどの場所に「はちビバ川口(八王子市川口子ども・若者育成支援センター)」はあります。センター館長を務めるのは、八王子市がJUMP-JAMを採り入れる前からその楽しさや可能性に注目していた井垣利朗さん。他の遊びにはないJUMP-JAMの魅力について、伺いました。


(プロフィール)
はちビバ川口(八王子市川口子ども・若者育成支援センター)センター館長
井垣利朗さん

地域のコミュニティの中で子どもにかかわる仕事がしたいと、学生時代から児童館のボランティア活動に取り組む。1991年より八王子市内の児童館・放課後児童クラブに勤務。日本レクリエーション協会上級レクリエーション・インストラクター、日本レクリエーション協会余暇開発士、児童健全育成推進財団認定 児童健全育成指導士。




運動遊びが子どもの心を豊かに育む

広い館庭があり、JUMP-JAMはもちろん野球やサッカーなどさまざまな遊びやスポーツを楽しめる「はちビバ川口」。館内にも広い体育館があるなど、子どもたちが思いきり遊ぶのに十分なスペースがあります。小学校から近く、学童クラブが併設されており主な利用者は小学生ですが、中・高校生世代が学校や部活帰りに遊びに来る姿も多く見られます。

センター館長を務める井垣利朗さんは、幼い頃から体を動かすことが大好き。育った地域にはスポーツでコミュニケーションをとる文化があり、運動を介して人とのつながりの中にいる自分が「安心安全」であると感じていました。その経験から、職業として子どもたちの遊びや運動に関わることができる児童館職員に興味を持ったといいます。

「運動や身体を動かす遊びには、楽しさもある一方でリスクがともないます。相手との接触もあるし、自分自身も転ぶことがある。自分の身体を動かして遊んでいるとそのリスクを負っていることに気づいて、自然と安心安全に遊べる相手との距離をはかれるようになったり、人に対して寛容さが生まれて許しの心が育まれると思います。コロナ禍はその遊びが奪われ、子どもたちの心にゆとりが無くなる様子がみられたので、遊びの重要性をさらに実感する機会になりました」



「子ども主体」で遊ぶ経験ができているか

井垣さんがJUMP-JAMを知ったのは、プログラムが始まった2017年のこと。当時、八王子市としてはまだ取り組んでいませんでしたが、井垣さん個人がトレーナーとして関わりをもつところからスタートしました。その後、2018年から八王子市の児童館でJUMP-JAMが行われるようになりました。

月1回はイベントとして実施。館内の掲示板には、子どもたちや保護者の目につきやすいところにJUMP-JAMの遊び方や内容、開催のタイミングなどを告知しています。それ以外に、子どもからの希望で普段の遊びの中でJUMP-JAMを行うことも多く、ときには近隣の小学校に出向いて実施することもあります。

「JUMP-JAMが始まる前から、この地区の子どもたちはよく身体を動かして遊んでいましたし、職員も遊びを意識していたと思います。でもよく遊んでいることと、『子ども主体』で遊んでいることはイコールではありません。これまでの遊びは、大人が大勢の子どもたちに遊び方やルールを指導し、子どもたちが楽しむという形が一般的でしたが、JUMP-JAMは完全に子どもの自発性を尊重するコンテンツです。『子ども主体の遊び』の大切さをシステム化している点で、子どもだけでなく職員にとっても必要なプログラムだと感じました」

JUMP-JAMは、子どもたちが自発的に動き、考え、楽しむことができる運動遊び。トレーニングを受けた専門の職員がゲームを進行するファシリテーターを担いますが、その遊び方やルールは自由です。年齢を問わず一緒に遊ぶことができるので、考える力やコミュニケーション能力、創造力を発揮しながら、みんなで自由にオリジナルの遊びをつくりあげることができます。

「今でこそ、こども家庭庁ができて『こどもまんなか社会』を目標とする政策が推進されていますが、子ども主体を実現するための取り組みは、これから具体化される段階です。自由に遊べる児童館でも、意外と職員が子どもの遊びを仕切っていることがあります。その点、JUMP-JAMは運動遊びのコンセプトがわかりやすく、実際のゲームの内容や進め方を伝えやすいので、『子ども主体』を体現できるコンテンツのひとつだと考えています」



子ども同士の人間関係にも注目

また井垣さんは、JUMP-JAMは職員と子どもの関係性だけでなく、子ども同士のコミュニケーションにもプラスに働くと思っているとも話します。

「児童館に来る子には『クラスの仲良し3人組』など、学校の人間関係をそのまま持ち込んで、仲間同士で遊ぶケースが多く見られます。でもJUMP-JAMは『今からJUMP-JAMやるよ』と伝えて興味を持った子たちが『この指とまれ』で集まる無作為なメンバーで行われます。ゲームが始めれば、そういった関係性が一旦くずれることになります。それまで一緒の時間に児童館にいても話をしたことがなかったような1年生と6年生に新しい交流が生まれたり、これまでの関係性から自由になり、多様な子どもと関わる。本当の意味で心が解放される時間は、子どもにとって非常に貴重な経験になると思います」



JUMP-JAMをやってみよう!

井垣さんにお話を伺った日は、館庭でJUMP-JAMが行われました。当初は館内で「島おに」を予定していましたが、ゲームの企画や進行を担当するキッズリーダーのれんくんの発案で、館庭で「しっぽ取り」をすることになりました。

れんくんは1年生の頃から毎日のように児童館に通い、JUMP-JAMにも参加。好きな遊びは「王様ドッジボール」だとか。最初は「見ていて面白そうだと思って」参加し始めたれんくんですが、3年生になってからはキッズリーダーにも挑戦するようになったといいます。緊張しながらもJUMP-JAMを告知する館内放送をしっかり務め、開始時刻には学童クラブの子を含めた20人以上が集合しました。

初めて参加する子もいたので、まずはウォーミングアップから。「しっぽ取り」の基本の遊び方は、2つのチームに分かれてそれぞれ別の色のしっぽをつけ、相手のチームのメンバーのしっぽをできるだけ多くとったほうが勝ちというもの。

何度か行って慣れてきたら、「隠れ王様しっぽ取り」が始まりました。基本的な遊び方は同じですが、各チームで王様をひとり決めます。王様のしっぽがとられた時点でそのチームが負けになるのですが、相手チームは誰が王様かわからない状態でゲームがスタート。誰を王様にするか、サポートする人を誰にするかなど戦略を練る楽しさもあるので、作戦会議でもさまざまな意見が飛び交います。積極的に相手のチームのしっぽを取りに行く子、角に隠れるようにして最後まで逃げ切る子など、遊び方にも個性が見られます。

実際に遊んでみると、「誰かにしっぽを取られたのに座らずに、遊び続けていた子がいる」など問題点も出てくるので、次のゲームではどうするかを子どもたち同士で話し合います。こうして何度か繰り返しているうちに、ゲームの形が変化していき、最終的にはまったく違う遊びになって時間が終了。子どもたちの声で変えていく自由さもJUMP-JAMの特徴です。

自分の思ったことや気づいたことを発言し、みんなで話し合い、ルールを決め、うまくいかなかったらもう一度考える。こうしてよりよい形でゲームを進める経験を積み重ねていくことで、教えられたルールを守って遊ぶだけでは得られない力を育むことができます。年齢や立場に関係なく頭を突き合わせ、一緒に楽しむJUMP-JAMには、「こどもまんなか社会」のビジョンを実現するヒントが隠れているかもしれません。


==はちビバ川口での人気ゲーム==
しっぽ取り
島おに
ジャンケンベースボール
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