STORY

子どもたちは、もっと自由に遊んでいい。
JUMP-JAMで、子どもたちの可能性を広げ さらに主体的な「遊び」へ進化する

2019.05.28

全国にある児童館の支援を行う児童健全育成推進財団と、アメリカに本社を置くスポーツブランドであるナイキ。一見連携することが想像できないこの組み合わせは、どうやって出会い、手を携えていったのでしょうか? JUMP-JAMのパートナーにお話を聞くシリーズ第2回は、児童健全育成推進財団の阿南健太郎さんに、児童館とナイキがつながった経緯や財団としての想いについて伺いました。

プロフィール
児童健全育成推進財団 総務部部長
阿南健太郎
北海道教育大学教育学部旭川校健康科学課程在学中に、北海道旭川児童相談所保護指導員として任用。1999 年4 月~2003 年3 月 社団法人 日本青年奉仕協会に勤務。青少年、企業人、災害時のボランティア活動プログラム開発等を担当。
2003 年4 月より、一般財団法人 児童健全育成推進財団に勤務。児童厚生員・放課後児童支援員等の研修事業、広報、第三者評価、調査研究、企業との連携事業に携わっている。



■危機感を感じていた現場の児童館職員たち



「『JUMP-JAMのある日は、子どもが児童館をめがけて走って来ます』なんて報告も届くようになりました」と嬉しそうに語るのは、児童健全育成推進財団の阿南さんです。

「ナイキから、私たちに最初に話があったのは2016年でした。『日本の子どもたちの運動、遊び、体力などをリサーチしているので、児童館の子どもたちの様子を教えてください』といった内容で、情報提供したり、児童館を何館かご案内しました」と語る阿南さん。穏やかな口ぶりで3年前を振り返ります。

ナイキのスタッフは児童館を視察する中で、児童館が地域のコミュニティに根ざしていること、無料の施設で通いやすく、近所に住む子どもたちでにぎわっている様子などを丁寧に視察していたと言います。

当時、児童館職員たちは、あまり運動が得意ではないと感じていたり、身体を動かすことを好まない「非アクティブ層」の子どもたちの体力低下に関してとても危機感を感じていました。ケガが増えたり、誘っても身体を動かす遊びに興味がわかない子どもたちの姿。このままでいいのだろうかという疑問を感じつつも、効果的なプログラムがない。どうにかして「非アクティブ層」の子どもたちにも、体を動かす楽しさを知ってほしいと悩んでいる状況でした。

■小学生の子どもたちにアプローチする「遊び」。この時期の子どもたちは、もっと遊んでいい。



阿南さんは、正式にナイキから「一緒に運動遊びのプログラムを開発しましょう」という提案があったとき、当初はナイキというブランドから受ける華やかなイメージと児童館のイメージと少し違うように感じ、とまどったそうです。しかし、児童館職員たちが感じていた危機感に対して、救いの手が差し伸べられたような感触があり、「これはひとつ、おおきな船にナイキと一緒に乗ってみよう」といった気持ちになったとのことです。

「正直なところ、ナイキというブランドが、児童館が大事にしている "遊び"に注目をしてくれたのだといううれしさや、ナイキと一緒にプログラムを開発することに対して面白そうという期待感もありました」
児童館は、これまでも「子どもたちには『遊び』」は大切なこと」という考えを、伝えてきました。しかし保護者は、乳幼児にとっての遊びの大切さは、おおむね理解してくれるものの、子どもが小学生になると次第に「勉強」に意識が向き、なかなか「遊びの大切さ」に対する理解を得ることがむずかしく、課題に感じていました。ナイキの「遊びながら身体を動かすことが、子どもたちの心身の成長に繋がる」という考え方は、まさに児童館側の想いと合致したのです。

■広くても狭くても遊べ、勝ち負けにとらわれない「遊び」のプログラムにこだわる



プログラムを開発するにあたって、児童館側が最初に重要視したことは、どんなに狭い児童館でも遊べるプログラムにするということでした。

児童館というのは、施設規模がさまざまで、体育館のような広い設備を持っているところもあればそうでないところもあります。「この道具がなければできない」とか「これだけの広さが必要」といった条件や制約があるプログラムは、児童館で広めるには難しいと考えたのです。

次にこだわったことは「遊びの要素が多いプログラムにする」ということでした。
ナイキは、世界各国で文化や実情に合ったプロジェクトを展開しています。国によって異なりますが、スポーツに近いプログラムを進めている国が多数を占めます。

しかし、日本の児童館で競技性の高いスポーツを広めるということは、本来の児童館の趣旨とは異なったものとなってしまいます。児童館なりのアプローチで、非アクティブ層の子どもの体力向上やコミュニケーション能力の向上を目指すために「遊びにこだわりたい」という意向をナイキにも伝え、話し合いを重ねました。

運動が苦手な子であっても身体を動かす喜びを知ってもらう。なるべく間口を広げ、たくさんの子に遊びに来てもらう。そこにこそ、児童館でJUMP-JAMをやる意味があると考えたからです。

「ナイキとは、英語でのやり取りやカルチャーの違いから、開発までの道のりは簡単ではありませんでしたが、児童館の現場をみてもらったり話し合いを重ね、『日本にはこのやり方が合うようだ』と、今では深く理解してもらっています。」

■ナイキのスタッフではなく、児童館職員がやるということを繰り返し伝える



一方、児童館職員にとっても、新しいプログラムが入って来ることに全く抵抗がなかったわけではありません。「企業が主体になってしまうの?」「今まで自分たちがやってきたことが否定されてしまうのでは?」といった不安もありました。また、「ナイキからコーチングスタッフが来て、子どもたちと遊んでくれるのでしょう?」といった誤解もありました。

「児童館職員には、『いえいえ、子どもたちにJUMP-JAMのプログラムを伝えるのは、普段子どもたちと接しているあなたたちですよ』ということを伝え続けることが必要でした」

子どもたちの身近にいる児童館職員が「やろうよ」と手を差し伸べる。子どもに「ちょっと教えて」と言われたときにすぐに答えられる。いつもは、工作や絵本の読み聞かせをしているような職員が身体を動かし遊び始めて、楽しそうだ。そんなアプローチが、非アクティブ層の子どもたちの心を動かしていきます。
実際に遊んでみれば、勝ち負けはないので運動が苦手な子でも活躍できるチャンスが多い。一緒に楽しむから達成感が味わえる。勝った子だけが達成感を味わうだけでなく、みんなで「楽しかったね!」と言い合える。こうして、次第に非アクティブ層の子も身体を動かすことが楽しくなっていきます。

「アレンジが自由で、ゲームのゴールが変えられるのもJUMP-JAMの特徴で、そこもとても良い点だと感じています。限られた空間でできる遊び方を子どもと対話しながら考えるのは、児童館職員の得意なスキルでもありますからね」

■僕らの手を離れる時期は、すぐ来るかもしれない



今は、都内でJUMP-JAMを実施しているのは35館。3期目にあたる今年は60館に広げていきたいと、阿南さんは考えています。
「都内の児童館は約600あるので、60館で実施できてもやっと1割です。けれどもその1割がしっかりとモデルとしてできていれば、あとは加速度的にJUMP-JAMが広がっていくのではないかと思っています」

1回でもJUMP-JAMで遊んだ。毎週遊んでいる。イベントでJUMP-JAMを見たことがある。そういう子どもが増えれば増えるほど、それぞれの子どもの可能性はより広がっていくはずです。

「2期目に入って、福井、大阪、沖縄、長野といった地方の児童館からも『JUMP-JAMをやってくれませんか』という声が届くようになりました。考え方をお話したり、東京のJUMP-JAMを見に来てもらったりして側面的に応援していますが、まずは、東京でしっかりとしたモデルを確立することが大切だと思っています」と阿南さん。

■しっかりと土台を作る第3期目



土台作りのひとつに、今年から始動しているキッズリーダープログラムがあります。今日は何をして遊ぶか、どういうルールにするかということをみなの声を聴きながら決めていくのがキッズリーダーです。

昨年、国から出た改正版児童館ガイドラインでは「子どもの主体性をどうやって引き出すか」が大変大きなテーマとなっています。
受動的な遊びから脱却して子どもたちが自ら能動的に遊びを作っていくというJUMP-JAMの考え方はまさにそのガイドラインにも即したもの。中でもキッズリーダープログラムは、自ら考え、自ら楽しめるように自分たちで意見を表明していくために欠かせないものです。

さらに、高学年になるにつれ、少し高度な遊びも入れていき、学年進行に合わせたものを定着させる。また、子どもの声をきちんと引き出し、まだまだ遊びに入ってこられない子どもにいかにアプローチをしていくかといったことも3期の課題です。

「JUMP-JAMが僕らの手を離れる時期はすぐ来るかもしれないねという話は、1期の途中からうちのスタッフとしているんです。それはそれで大変うれしいこと。でもきちんとしたプログラムを作っておかないと、崩れて行ってしまうので、今、しっかり土台を作っておきたい。いいものをきちんと届けたいという想いは、僕らの中にずっとあるんです」

子どもとともに、JUMP-JAMプログラムも成長中です。

取材・文 宗像陽子 写真 平林直己
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