STORY

女の子たちにも、のびのびと身体を動かしてほしい。
独自の「ガールズタイム」によって、新たに育まれた子どもの力

2020.07.16

都内に約600館ある児童館のうち、現在91館で取り入れられ、徐々に広がりを見せるJUMP-JAM。江東区にある東雲児童館では、小学校低学年の女の子だけで遊ぶプログラムのなかで、JUMP-JAMを楽しんでいます。その独自の取り組みは、なぜ始まったのか? 実施後、女の子たちに訪れた変化とは? 職員の武石果歩さんに教えていただきました。

【プロフィール】
江東区東雲児童館職員
武石果歩
東京YMCA社会体育・保育専門学校で幼児教育を学んだ後、2019年から勤務開始、現在に至る。


◆運動遊びから遠ざかりがちな女の子たちのためにつくった「ガールズタイム」


りんかい線東雲駅から10分ほど歩くと、都営住宅が立ち並ぶなかの1棟にある江東区東雲児童館(以下、東雲児童館)。2008年に、青少年の成長を支援する公益財団法人東京YMCAによって運営が開始され、核家族化が進む地域において「人と人をつなぐ児童館」を目指して、子育てを応援しています。

そんな東雲児童館の新卒2年目の職員として、たくさんの子どもたちとふれあう毎日に刺激を受けているという武石果歩さんは、子どものころから身体を動かすことが好きだったと言います。

「幼稚園のころから地域のスポーツクラブに参加して、水泳や器械体操などの運動を続けてきました。高校でも水泳部の活動に打ち込んでいたから、進路を考えたときに、大学で学ぶという選択肢はなかったんです。身体を動かすことや子どもと遊ぶことが好きだったので、そういうことができる方向に進もうと思いました」

専門学校で幼児教育を学んだ後、東雲児童館の職員になった武石さん。働き始めてすぐ、小学生の女の子を対象としたプログラム、「ガールズタイム」の担当を任されることになります。

「館内には、ドッジボールや卓球などの運動ができる集会室という部屋があります。そこで小学生の男の子たちがよくボール遊びをしているのですが、中学年くらいになると、速くて威力があるボールを投げるんです。そうなると、低学年の女の子たちは怖がって集会室に入らなくなり、身体を動かす機会が奪われてしまっていました。『ガールズタイム』は、そんな女の子たちのために、のびのびと身体を動かしてほしくてつくったプログラムなんです」


◆勝ち負けがないおもしろさと勝ち負けがあるおもしろさ、どちらも経験してほしい


毎月1回開催され、工作やお絵描き、デコレーションクッキーづくりなど、何をして遊んでもいい時間でもある「ガールズタイム」。そのなかのひとつとして、運動遊びのJUMP-JAMを取り入れています。

「運動が得意でない子もいるので、まずウォーミングアップにコーディネーションジャンケンをして、身体を温めます。そして勝った子どもたちにメインの遊びを決めてもらうんです。特に人気の遊びは、リバーシや風船バレーボール。さらにその回に参加している子どもたちの人数や年齢に応じて、風船バレーボールをリレーにアレンジするなど臨機応変に楽しんでいます」

JUMP-JAMを知った当初、必ずしも勝ち負けにこだわらないルールに驚いたという武石さん。女の子たちも勝ちを目指すスポーツや遊びに慣れていたため、なかには戸惑う子もいたそうです。

私自身は、勝ち負けがあってもいいと思うんです。勝ちたいという気持ちによって成長できることもある。だから、『ガールズタイム』の30分の中でJUMP-JAMの運動遊びをいくつかするときには、ひとつめは勝ち負けなしの遊び、ふたつめは勝ち負けありの遊び、というように両方のパターンを取り入れていますね」

◆JUMP-JAMで遊ぶなかで、自主性や仲間への思いやりの気持ちが育まれる


現在の「ガールズタイム」の常連は、小学校1年生~4年生くらいまでの女の子たち。武石さんは、「ガールズタイム」のなかでJUMP-JAMをすることで、低学年と中学年が一緒に遊べるようになったと感じています。さらに普段は控えめな子がリーダーシップを発揮したり、上の学年の子が下の学年の子に遊び方を教えてあげたりするという場面も増えたとか。

「いつも本ばかり読んでいた子をJUMP-JAMに誘ってみたら楽しんでくれたようで、他のプログラムにも興味をもって参加してくれるようになってうれしかったですね。私自身も、JUMP-JAMを始めてから変わりました。それまでは私が遊びの内容を決めることが多かったけれど、女の子たち自身に考えて進めてもらいたくて、『みんなはどうしたい?』と意見を求めるようになりましたね」

昨年末には、「ガールズタイムでやりたいこと」という紙を貼って女の子たちに自由に書き込んでもらい、その意見を反映して内容を決めたそうです。

「JUMP-JAMの『キャップオニ』を書いた子もいたので、その案を取り入れてみんなでミニ運動会をして盛り上がりました。これからも女の子たちがやりたいことに対して、できる限り応えてあげたいと思っています」

しかし一方で、武石さんは、子どもたちの運動不足による身体能力の低下には深刻さも感じていると言います。

「男女限らず、身体全体を使うことが苦手な子どもが多い印象を受けます。ブランコで遊ぼうとしても自力で漕げず、大人に『押して』と頼んで振り子の原理だけで揺られている。自分の足で地面を蹴って力を入れて漕ぐという動作ができないんです。縄跳びの二重跳びや後ろ跳び、マット運動の倒立や後転ができなかったりする子もいます。手足の力が弱く、持久力がないように思いますね」

新型コロナウイルス感染防止対策による休館を経て、6月に再開した東雲児童館。開館を楽しみにしていた子どもたちが今日も飛び込んできます。

「自粛期間中、子どもたちは思いきり身体を動かすことができず、さらに運動不足が進んでいると思います。仲間と遊ぶ機会も減っていたと思うので、これからは充分に気をつけながらJUMP-JAMを引き続き楽しんでいきたいですね」

女の子たちだけで満喫する「ガールズタイム」。JUMP-JAMの運動遊びを楽しむひとときは、彼女たちの自主性や仲間への思いやりの気持ちも育んでいます。



写真 平林直己
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